コラムリレー ~広報委員による研究座談会~

将来、花が開き、実を結ぶような研究の種を「研究シーズ(Seeds)」と言います。看護研究に取り組む際、「研究シーズ」をどのように見つけることができるのでしょうか。今回は、医療現場や教育研究機関で看護研究を継続している広報委員会のメンバーの方々の研究シーズを紹介していただきます。また、広報委員長の箱石恵子さんには、岩手における看護研究のレベルアップに尽力された故・兼松百合子先生の思い出も伺いました。

2021年度広報委員による座談会の様子

司会・遠藤良仁:皆さんはどのような研究のシーズをお持ちでしょうか。

木村怜:私は新卒で勤めた精神科病院での臨床経験が研究の関心になっています。精神の疾患に加え、身体的疾患も抱えている患者さんが多いのが印象的でした。その後、内科病棟に勤務。糖尿病や腎臓の病を持つ患者さんと関わるうち、精神科でも糖尿病などの患者さんが多数いたことが頭に浮かび、関連付けて考えると面白いのではと思うように。教育職に就いてからは、精神と糖尿病、あるいは精神と身体合併症を研究として深めていくため、今も取り組んでいます。

木地谷祐子:私は大学時代、周産期にお子さんを亡くされたご家族の手記「誕生死」を読み、亡くなったいのちにも寄り添える助産師を志すようになりました。現在は、周産期に子どもを亡くした家族会のスタッフとしても活動しています。活動の中で、それぞれのご家族のタイミングで次の妊娠を目指し始めるものの、女性達がまた亡くなってしまうのではという不安を抱えて10か月過ごしていると知ります。もう一度赤ちゃんを授かりたいという思いや不安をしっかり受けとめたいと考え、修士課程では、女性の妊娠期間中における予期悲嘆と歩む経験をテーマに研究に取り組みました。現在は年4回お話し会を開催。これまで延べ数百人の赤ちゃんのお父さんお母さんに出会いました。ライフワークかつ研究テーマになっています。

遠藤:お二人とも学生時代に出会ったテーマを、今も一貫して探求し続けているのですね。

佐藤史教:僕が新卒で入った精神科で、実習時に出会った患者さんがまだ入院していたんです。半数以上の患者さんがそのような状況で、最初に受け持った60歳の患者さんは、40年入院していました。僕にも何かできないものかと考え、看護師ができるリハビリテーションに着目します。認知行動療法のソーシャルスキルズトレーニング(SST)や、病識を高めるような心理教育を学びました。修士及び博士論文も心理教育とSSTのことを書きました。教育現場に移り、学生が精神科実習に入る前に持っている不安を取り除くため、SSTや心理教育のスキルを活用。スタート時に学生が持っていた不安感はだいぶ取り除かれ、実践能力も身につき、すっと現場に入って患者さんと関われるように。このシミュレーション教育も10年ほど行っています。

遠藤:教員の仕事は、研究と教育。就職してからも学生時代の経験を大事にし、臨床で行ってきたことを、学生の学習支援にも生かしているのですね。

アンガホッファ司寿子:助産師となってから5年間は、分娩や産後のお母さんと赤ちゃんのケアに明け暮れましたが、6年目、臨床最後の年に、高度不妊治療センターでケアをする機会があり、不妊に悩む女性がいることを初めて知ります。そこで治療している女性たちの思いに触れるうち、不妊看護に興味を持つようになり、不妊カウンセラーになりました。修士論文も、不妊の女性が受診に至るまでの様相がテーマ。博士課程の時、個々が望む生殖のゴールにたどり着く支援をした方がいいのではと気付き、女性それぞれの生殖の人生設計を考えようというテーマで勉強しました。現在も、「リプロダクティブライフプラン」をシーズとして研究しています。

遠藤:臨床6年目に出会いがあり、今も発展させている。皆さん、大学院や今の現場でさらに研究を深めているのですね。次に、委員長である箱石さんには、岩手看護学会の初代会長を務められた兼松百合子先生の思い出も併せてお話していただければと思います。

箱石恵子:糖尿病や腎臓の疾患、それらの合併症の患者さんに関わるようになった時のことです。日々自己管理するための指導を行っても、血糖コントロールに結びつくように実施してくれる患者さんはなかなかいませんでした。結果的に、悪化したり再入院したりする人を何度も見ては、なぜ自己管理してくれないのだろうというもどかしい思いを持っていました。そんな時、アメリカのメイヨークリニックに研修に行く機会があり、現地の専門看護師の活動を目にします。患者さんは、自己管理してきたことを報告すると、すぐ看護師から評価をもらって次の行動につなげていたのです。短期間の関わりではあるものの、看護師の指導が的確だと感じました。

遠藤:指導しても良くならない患者さんと接し、知りたいというスイッチが入ったと。

箱石:後日、一緒に研修に行った仲間から、岩手県立大学へ赴任予定の兼松先生に引き合わせてもらいました。ある時、小児糖尿病の研究者である兼松先生に、対象者が多くて結果が出そうな量的研究をするべきかと尋ねると、「普段行っていることでいいんですよ」という返答が。早速、病棟から外来に行く時間をもらい、初診の患者さんの指導を開始しました。初診時の指導の有無で、血糖コントロールの結果に如実に違いがみられ、最初の関わりが大事だと痛感しました。
その後、兼松先生の勧めで、新設されたばかりの県立大学大学院看護学研究科の修士課程に進学。糖尿病の運動療法を定着させるための動機付けに取り組みます。博士課程では、ジョンソンの行動システムモデルと、自己決定理論を組み合わせて介入研究を行いました。継続して関わることで、いい結果につながりました。兼松先生の指導は強制的ではないのに、導きは確実で、ブレないのです。全部は語らず、考えさせる。こういう方が、研究者を育てる人なのだなと思いました。先生はよく、「対象者である患者さんにとっていいことをしなさい」と言っていたものです。ご自身も白衣を着て、受け持ち患者に毎週関わっていました。

遠藤:研究というとインタビューや統計解析などをしなくてはと思いがちですが、兼松先生は介入研究にこだわり、臨床看護師として普段行っていることでいいと助言されたのですね。看護師である以上、患者さんに貢献し、期待に応えなければという意識を強く持たれていたのですね。

箱石:兼松先生は、看護のレベルを上げるため、大学のみならず、地域や行政にも顔を出して働きかけていました。また、岩手県立中央病院の看護研究や外来の糖尿病ケアの研究にもずっと関わってくれたのです。いつも学会発表が終わると間髪入れず、「来年はどうするの?」と聞かれ、毎年研究が続きました。当時、看護研究を行っていたスタッフは、部署が変わってもそれぞれの部署で年1回の発表を目指して研究指導にあたっています。

遠藤:兼松先生と関わった方々は、普段の実践をブラッシュアップすることが研究活動につながっているのですね。
今回お話を伺った皆さんに共通するのは、臨床で関わった患者さんやご家族、研究の芽を伸ばしてくれる研究者など、「人」と出会っていることがきっかけになっていると感じました。それでは、これから研究に取り組んでみたい方は、どうすれば「研究のシーズ」に出会えると思いますか。

アンガホッファ:自分の研究のためではなく、誰のために看護を提供したいのかを考えることでシーズが見つかるのではないでしょうか。研究を続けるためのエネルギーにもなるかもしれません。

遠藤:皆さんそれぞれの体験と研究シーズのお話を伺うことができました。ありがとうございました。

2022/2/21 掲載

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